はじめに

「山野の植物」について

 登山やハイキングなどの自然観察の機会に撮影してきた植物や山岳地形を紹介しています。
 高校生物の学習題材の中に「植物の垂直分布」というものがあります。これは標高が100m高くなると約0.6℃気温が下がることなどの環境の変化によって、生育する植物(主として樹木について)が変化し、結果として静岡県などの日本の中部地方では下表のように「低地帯」「山地帯」「亜高山帯」「高山帯」の4つに分類される、ということを学びます。
標 高 垂直分布帯 発達する森林の名称 代表的な樹木
500〜700mまで 低地帯
(丘陵帯)
照葉樹林
(常緑広葉樹林)
クス・タブ・スダジイ
1500〜1700mまで 山地帯 落葉広葉樹林 ブナ・ナラ・トチノキ
2500〜2700mまで 亜高山帯 針葉樹林 シラビソ・コメツガ・トウヒ
2500〜2700mより上 高山帯 (大きな森林は発達せず、低木の針葉樹林ができる) ハイマツ・キバナシャクナゲ
コケモモ
 しかし、樹木とともに草本(* 脚注参照)も標高に従って育つ種類が変化していきます。当たり前のことですが、このことは、なかなか高校生には実感しにくいようです。登山部(ワンゲル)にでも所属していなければ、あまり山登りをする機会もないからでしょうか。また同じ垂直分布帯であっても、岩だらけで乾燥しがちな「岩礫地」、樹木の下部(「林床部(りんしょうぶ)」)、あるいは湿原や湖沼などの「湿地」といった環境の違いで、観察される植物も変化します。このことを具体的に提示できるような教材はなかなか見当たりません。
そこで、山登りの機会に撮影した植物の写真を使い、平成13年から作成を始めて、これまでに数回の改訂作業を経て、ようやく教材としてまとめたものが「山野の植物」です。
 「垂直分布ー生活環境別」の環境別の分類は著者の経験と主観でやっていますので、誤りもあろうかと思います。あしからずお許しください。
ネット上には多種類の植物をみごとな写真で紹介しているサイトもたくさんありますが、このような形式で紹介しているものは、他にないように思います。他に掲載している植物種を科別に分類した表や和名のあいうえお順に並べた表もつくっておきました。

「山岳地形や植生」について

 また、日本アルプスなどの高山独特の山岳地形についても、学習できる機会はほとんどないのが現状です。地理の授業などで、身の回りの地形を学習することはあります。しかし日本の自然や地形が、冬季の多雪や夏季の高温などの地理的要因や氷河期には大陸と陸続きになるとともに、海面の低下により島々が陸続きとなり、植物が南下できたので絶滅を避けられたこと、等々の歴史的要因によって形成されてきたことや、岩石の種類によって特徴的な地形もあることなどを学習する機会は、ほとんどないでしょう。
 そこで、自分がこれまで観察してきたものを、まとめたのが「山岳地形や植生について」です。主観に走り過ぎ、誤っているところあるかも知れませんが、これも多様な日本の自然というものを具体的に伝えたい、との思いで作成しました。
 どうぞ、お楽しみ下さい。

By charu

*  脚 注 *
 生物では良く使う呼び方ですが、一般にはあまりつかわれないですね。「そうほん」と読みます。いわゆる「草」のことで、これに対して樹木は「木本(もくほん)」と呼びます。